Posted by きなねこ - 2015.09.16,Wed
遊京、DS編でたぶん2回目の遊星VS鬼柳戦のあたり
2015/2/15 初出
2015/2/15 初出
帳が降りたような夜闇は遠くを望めず、ひどく静かなのに呼吸の音も聞こえない。今この場所が特殊な状態にあるせいなのだろうか。
鬼柳の腕に刻まれたダークシグナーの証たる、巨人の男の形に燃え盛る儀式めいたデュエルレーンは、確かに異様と言えるであろう空気に包まれている。
これも冥府の王の力とやらなのか。遊星にそれを知る術はない。
だが些細なことだった。屍は動かない。意思を持って動き、意思を持って口を開き、意思を持って遊星を殺そうと憎悪の槍を向ける彼は、確かにそこに息づいている。
自身にとって『生きて』さえいれば十分だ。
「鬼柳、」
冷たい土に横たわる彼からは死のにおいがする。屈んで鬼柳の口元に顔を寄せると、うすい呼気を感じる。ようやくこの場所も、きちんと音がすることを知った。
肘下まであるグローブを取り去って素手で頬に触れると、青白い肌が冷たく押し返してくる。死人の体温だ。
血色が悪く色素も薄い、体温の低い男だった。元から死んでいるような気配を湛えていたくせに、遊星の知る誰よりも強い生者の炎を持った男だ。サテライトの制覇という、ひとつの目標を掲げて遊星たち三人を誘い引き連れた強い男だったが、それも昔の話だ。
伏せられた瞼の奥にある眼光の昏い光を遊星だけが知っている。髪とおなじ色の睫毛が細かな影を落として、遊星だけの秘密を隠しているのだ。クロウとジャックが去り、二人だけで過ごした僅かな時間にいくつか彼の心の澱に触れたが、どれもひどく遊星を悦ばせたものだった。自分だけが知っている救世主の影だ。
そして今の彼は自分を憎んでいる。その手で引き裂いて、八つ裂きに、恐怖で傷つけて、出来ることなら自分と同じ所まで、それ以上の絶望を与えて引きずり落とそうと手を伸ばしてくる。
自分のためだけに最後に残ったであろう僅かなプライドを天秤にかけて、その時持ち得た全てを捨てて、生者と死者の境界を踏み越え現世に這いでてきたのだ。ただ一人遊星のためにこの男は呼吸をする。カードを捲る。文字通り、遊星のために『生きて』いる。
「鬼柳、お前は、生きているのか」
自分の声が震えていないか心配になったが、存外淡々としていた。聞くだけ無駄な質問だ、どうせ何も答えは返って来ない。意識がない者に答える術などない。
昏々と眠る鬼柳の唇を食むと、薄い唇に舌で割入る。外側の熱が死人のそれでも、粘膜は適度に温かい。意識のない舌を無理やり吸い上げて、生温い口内をぬるりと舐め上げると、そのまま唾液を啜った。きっと口腔以外の粘膜も同じように熱いに違いない。
温い肉に包まれきつく食まれる瞬間を想起すると、じっとりと腰が重くなった。体の中で篭った熱が、気付かぬ内に這い登ってくる。
丈の短いインナーを捲くって、微かに浮いた肋を下から上へと唇でなぞる。薄い身体なのは元からだが、それでも人並みだったはずという記憶とは違って、幾分不健康な印象を強く受けた。
冷たい牢獄の中で、復讐を願いながら衰弱する鬼柳を想像する。彼が何よりも大切にしていたデッキを奪われたと聞いた。人の尊厳など囚人にはないも同然だろう。その中で、遊星への憎悪がどれだけ彼の精神を支え、保たせたのだろうか。外界へ生きて這い出すことへの渇望が、じりじりと鬼柳を追い詰めただろう。死の間際も二度目の生誕も、遊星のことだけを思いながら迎えたのだ。
何もかもがひどく愛おしく思う。全身に口付けてやりたい気分だ。殊更皮膚の薄い箇所に力の限りに噛み付いて吸い付いて、痛ましい鬱血痕を残すことに終始するのもいいかもしれない。青白い肌を鈍い紫と茶色が混ざった痣が汚すのは、きっと遊星を充たしてくれる。
辿りついた薄い胸板に舌を這わせると、辿る途中で引っかかった乳首を口内に招き入れてねだるように吸い付く。ぷくりと立ち上がったそれを気が済むまで舐ると、そろりと上目に様子を伺った。時折むずがるような吐息を漏らしてはいるようだが、依然瞼は閉じたままだった。
この男は自分のせいで死んで、自分のために戻ってきたのだから、自分が好きに扱うのは道理にかなっているような気がした。遊星の好きに唇を寄せても、肌を粘膜を辿っても、何一つ文句が出てこないのがなによりの証拠の筈だ。
自分の中で全部に納得がいく。唐突に張り付くように喉が乾いて、思わずゴクリと鳴らした。
自身の急な思考に動揺しているのだろうに、それに全く行動は伴わない。迷うことなく鬼柳のベルトに手をかけると、下半身の衣類を手早く緩めて細身のボトムから片足だけ抜き去った。
あらためて剥き出しになった白い足にひどく興奮する。指先で下着を引っ掛けて引きずりおろしながら、無意識に呼吸を噛み殺した。自身の浅ましく勃起した下腹部が、窮屈な布の中で圧迫されて痛いくらいだ。
この体をこうして抱くのはいつぶりだろうか。もう二度とないと思っていた。そういう所は人間薄情にできているのだ。とうにすり合わせた熱を忘れていた癖に、どうすれば彼をひらくことが出来るか遊星は知っている。全部覚えている。
腰の下から手を差し伸ばして露わにさせた臀部に這わせると、奥まった窄みまで指を伸ばした。意識のない人間は全身の緊張が解けている筈だ、そんなに気を使いすぎる必要もないだろう。思考の上っ面の部分では、もう少し踏むべき手順とか、そういった部分に気を回そうとしているのだが、如何せん体は理性のコントロール下を離れていて言うことをきかない。今表層で暴れているのは、性急に鬼柳を凌辱しようとする自分だ。
双丘の間に乾いた指を滑り込ませて、窄まった入口を軽く引っ掻く。結ばれたそこがひくりと小さく震えるのを感じると、潔く手を取り去った。
少し落ち着いたように深い呼吸を漏らすと、遊星は自身の指先を口に含んで十分に舐る。改めて尻穴に中指と薬指を揃えてあてがうと、無遠慮に中へ押し込めていく。
急な異物の侵入に流石に体は驚いたのか、遊星の指をきゅうと締め付けてくる。それを意にも介さず押し広げるようにぐにぐにと奥へと伸ばしていくと、ぬるい体温に指先をじりじりと焼かれる錯覚がする。この中に早くはいりたい、過去にそうしたように全て受け入れて欲しい。甘く絡み付いて、自身を絶頂へ連れて行く熱だ。
「ぅ、ん」
「っ…、鬼柳…?」
頭上から飛んできた呻き声にのろのろと顔をあげると、僅かに眉根を寄せてうっすらと開いた口から吐息を漏らす鬼柳がいる。目が覚めた訳ではないようだが、重なる無体に流石に反応を返したようだった。断続的に漏れる小さな音は甘えているようにも聞こえる。
驚いたが、遊星としては覚醒してくれて一向に構わないのだ。あの闇色の目に自分をはっきりと映して、お前が渇望した憎いころしてしまいたい相手も同じように求めているのだと知って欲しい。空白の三年間がなかったように振舞いたい。
人は身勝手だ。口内で嘲笑を噛み殺す。口端が歪む。
おざなりに内壁を解した指を取り去ると、そのまま腰を掴んで自分の方に少し引きずって引き寄せる。
自身のボトムの前を寛げると、小さくシミの広がった下着からペニスを取り出す。じわりと滲む先走りに指を絡めながら軽く扱くと、一寸先の期待に更にだらだらと涎を零した。先程からまだかまだかと待っていたのだ、早く目の前の獲物に喰らい付きたいと天を仰いで遊星を急かした。まるで舌なめずりをするように唇を濡らす。
前から双丘を滑るように後ろへ手を回して太腿を掴み開かせると、そのまま尻穴に勃起を宛がった。ゆっくり腰を浮かせて進めるも、十分な前戯を施したとはいい難いそこは追い出すように窄まる。それでも押し進むと、狭い肉壁がぎちぎちと遊星に噛み付いてくる。
薄い体が擁する内臓だ、器の容量も知れている。それにしたって何度か情を交わした体が遊星を忘れたように拒んでくるのは頂けなかった。この男には遊星の何もかもを思い出して貰わないといけない。たった今目の前にいる遊星も含めて。
気付かず息を止めていたようで、一度深く吐き出すと再度奥まで貫くように掴んだ腰を引き寄せた。途端に熱を持った肉壁が、うねる様に遊星を食んでくる。待ち侘びた感触と体温に背筋がぞわぞわと震える。多幸感に眩暈がして鬼柳を見下ろすと、閉じられていた筈の瞼がゆるゆると開くところだった。
「っあ……?」
「ああ……鬼柳、分かるか?」
虚ろな月がぼんやりと遊星を見上げる。金色の蜜が濁ったまま目の前の男に像を結ぶ。数度、緩慢に瞬きして遊星を焦らす。
意識を持てば澱んでギラギラと輝き裏切り者を射抜くであろうガラス玉が、うっすらと遊星をうつしているという事実に背筋がぞわぞわと震える。全身が歓喜して、頭の中が酔ったようにくらくらと揺れた。
「なに……なんだ、……あっ」
「鬼柳、鬼柳、俺だ、お前の殺したい男はここにいる、俺を見てくれ鬼柳」
状況が飲み込めていないのだろう、殆どうわ言のような単語を吐息と共に漏らして、合間に微かに喘ぎが混ざる。いやだというようにゆるゆるとかぶりを振るのを無視して、削るように突き上げる。ひゅっと息をのむ音が耳に届いた。
反射的に仰け反った顎を追いかけるように喉笛に噛み付く。きつく噛み締めたいのをこらえて歯を皮膚の上で滑らせると、今度こそ項に衝動のまま歯を立てて吸い付いた。思った通り最高の気分だった。組み敷いた雌を逃がさないように、こうして急所に噛み付いて交接する獣がいると聞いたことがある。きっと今の自分は獣と同じ本能で動く生き物なのだ。自分は鬼柳を逃がしたくないのだ。
口ではいやだと何度か零しているが、結局意識が起きても大した抵抗を見せないで、寧ろ追いすがるように遊星の背に腕を回してくる。何度見惚れただろう、デッキから鮮やかにカードを捲った美しい白い指が遊星に爪を立てて掴んでくる。憧憬の対象が縋りつくように肌を擦りあわせてくるのにただただ煽られる。
遊星の存在を完全に理解した胎内が、吸い付くように遊星の肉を絞る。ひくつく肉の輪で好き勝手にペニスを扱いて、腹の表側に向かって擦りつけるように突くと、とうとう意味のある言葉は鬼柳の口から出てこなくなった。
尻肉を掴んで左右に開くと、更に奥に突き入れようと腰をぐりぐりと擦り付ける。遊星の体を挟んだ白い足ががくがくと震える。鬼柳の目の端に浮かんだ涙を睫毛が弾いて、頬の上を伝い落ちた。顔を寄せて涙に吸い付き、そのままつられたように口付ける。
意識のある口内を探って舌に噛み付くと、そろそろと鬼柳の舌先が遊星の歯列をなぞってみせる。気を良くして鬼柳の舌を自身の舌先でなぞりながら唾液を交換すると、飲み下しきれないのか口端を汚した。口内を犯しながら体を揺さぶると、記憶を辿って彼が悦ぶ箇所を何度も突き上げてやる。押し上げてごりごりと擦りつける動きにあわせて、大袈裟なほどに鬼柳の体が痙攣する。眼窩に嵌った金色が薄く涙の膜を張って蕩ける。今まで遊星の内側の、奥の、底の方へ隠していた何かが月にうつって自分を見返している。
「あ、ゆうせ、ゆうせ、っ……」
「鬼柳、もっと名前を呼んでくれ、前にそうしてくれたように」
「ゆうせえ、ゆうせ、あっ、ア、」
ひくりと鬼柳の体が痙攣して、ゆるく勃起したペニスが、だらだらと決壊したように精液を零す。擦りあわせて熱を持ちすぎた肉壁も、同じように引き攣って遊星の最後を促し絡み付いてくる。ブルリと腰が震えて、そのまま鬼柳の中へ吐精すると、酩酊したような思考の中にすっと冷静な部分が戻ってくるのが分かる。
ずるりと中から性器を抜き去ると、乱暴に竿を扱いて残滓を鬼柳の腹にぶちまけた。へその窪みに溜まって、薄く浮いた腹筋の溝を伝うそれを、目を細めて見遣る。
当の鬼柳は短く浅い呼吸を暫く繰り返したかと思うと、段々と落ち着いた深い吐息に変えてぼんやりと何もない虚空を探っているようだった。何もないと思っているのは遊星だけで、鬼柳には何か見えているのかもしれない。例えばそれは記憶と精神を暗澹とさせる生前の一瞬だとか、まぼろしのようなものだ。
遊星の体に縋っていた腕も指先も地面に投げ出されて、自身が彼の思考の外側にいることだけは確かだった。
「鬼柳」
興を削がれた気分になって、鬼柳の思考を自分の方に向かせようと名前を呼ぶと、ぴたりと視線が彷徨うのをやめて遊星を見返す。
夜に浮かぶ誘いの手が遊星の意識を手繰っている。真っ黒に濁った双眸にただ一人の男を閉じ込めて静かに呼吸している。そのままその蜜色を飲み干してしまいたいとうっすらと思った。
「遊星、お前は」
手をひいてくれた時の快活さも、手を伸ばしてくる時の狂気も感じない、静かな声が名前を呼んでいる。雨の日に根城にしていた廃墟で、ただ二人押し黙っていた時にこういう声色で遊星を誘った。
あの時は、遊星の太腿をなぞった指先の感覚を追うのに精一杯で、息をつめていたのを覚えている。続く言葉は耳に届かない。曇ったガラスの向こう側の出来事のようだ。全てはあの日の続きなのかもしれない。
手を伸ばして頬に触れると、ほんのりと人間の温度を感じた。内側に篭っているだけだった筈の熱が、外に漏れているのだろうか。遊星と熱を擦りあわせて交換して、孕んだ何かが溢れているだけかもしれない。殺意と薄汚い欲が入り混じったそれが、ろくなものでないことだけは確かだった。
そして生温い温度は死んだ肉を腐らせる。そうしたら腐敗した憎悪が、劣情が、鬼柳の体に満ちるだろう。
彼はやはりまだ生きている。遊星の熱が鬼柳を突き動かす。
あてのない夜を導いてくれた月は二度枯れることはない。はたして水面のそれだとしても、遊星にはついぞ関係のないことだ。
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