Posted by きなねこ - 2013.09.10,Tue
ガイ←ルク、屋敷時代
2012/4/6 加筆修正
2012/4/6 加筆修正
カタリと窓が小さく鳴くと、反射の様にヒュッと空気が喉に吸い込まれる。
縮こまるように丸めていた背を緩慢な動作で後ろに倒し、ベッドヘッドに体を預けると窺うように首を少しだけ上げる。
体重を支えるスプリングやベッドヘッドがきしきしと声を上げるのが随分遠くに聞こえる。常より少し開いた目にうつる窓は風を受けて再びカタリと鳴いた。
安心した途端に肺の奥から押し上げてくるように大きなため息が溢れる。
すっかり窓の外に意識を持っていかれて興醒めしてしまったルークは、所在なさげに下股で揺れた左手を持ち上げる。
まだ水っぽいとろりとした液体が糸を引いて、真っ白な太股にぽつりと落ちた。
夜着代わりにしていた襟刳りの開いた黒いシャツに申し訳程度に右足にかかった下着とズボン、ぐっしょりと濡れた下半身と手のひらに部屋に篭もる独特のにおいと空気で、ルークが手を止め窓を振り返る直前まで密やかに続いていた行為の正体は明らかで、彼に見つかったらとんだ羞恥プレイだなと自嘲した。
ガイにまだ見られるわけにはいかないのだ、と思いながらも窓の鍵を閉めないのは何故だろう。
彼は聡い男だから(それもことルークに対して特に)、「今夜も戸締まりをきちんとしないと」とルークが少し大きな独り言を漏らせば絶対に夜に部屋を訪ねては来ないだろう。
そもそもガイが夜半に部屋を訪ねてきてくれることが前提になっているのもおかしな話だが、ルークにとってはそれが常だ。
普段はルークが本当に来て欲しい時に(そして来て欲しくない時に)タイミングを合わせてやってくるのに驚いたが、それも数年を経て慣れてしまった。
一瞬で削がれてしまった熱に、今夜はもういいかと思っていたのに、窓を揺らす音に怯え思考の先を彼に伸ばした途端にずくずくと熱が戻る。
かあ、と耳まで熱くなるのを感じながら一瞬宙で泳いだ左手を太股の内側に滑らせた。
「ガイ…」
屋敷であてがわれた部屋で、眠っている筈の彼の人の名前をひとつ呼べばもうあとはいつも通りだ。
「ぁ、あ…ガイっ…」
喉の奥につっかえる様な小さな音を漏らしながらきつく目を閉じれば、呼んだ人がいとも簡単に脳裏に描かれる。
先の湯浴みの時に、優しく肌を撫で上げた彼の手のひらを思い出して熱い息を漏らす。
物心ついた時から側に仕え、世話を焼いてくれるガイは気付いたら親友で、親友なのにこうして夜に彼を思い出す自分はきっと最低なのだ。
ルークの鳥かごの小さな世界には余り多くのものはないので、しかしそれにしたって余りにも大きく自身の中を占めるそれに焦れったくなる。
どれもこれも、眠っている(とガイは思っている筈の)ルークを、指先や視線でいつまでもなぞるのが悪い。
(ガイはどうしてそんな風に俺に触るんだ)
(あんな顔をして、あんな目をして)
(昼間は、そんな風に扱わないのに)
勘違いしてしまう、ガイの世界も夜の間だけはルークが多くを占めているのだと、自分と同じように思ってくれているのだと。
まだ恋や愛なんてルークは知らなかったが、ガイを特別に思っていて、でもそれは親友とははっきり違っていて、そして夜半の秘め事に彼の名を呼ぶのは親友という立場を裏切っているということは分かっていた。
「はっ…!」
誰もいないはずの窓辺へ視線を流して、彼がそこから自身を見つめる妄想にはち切れそうな熱がもっともっとと上り詰める。
自分はこの裏切りに似た行為を彼に見つけて欲しいのだろうか、持て余している感情を共有して、ガイに「俺も同じだよ」と囁かれたいのだろうか。
そうされたとして、自分はその先どうしたいのだろう。
そこで満足して終わってしまうのだろうか、それともつきない欲にもっともっとと彼を強請ってしまうのだろうか。
(俺にはガイに教えて貰った世界しかこの手の中にないんだ)
(これが『好き』なんだろう、なあガイ)
悲鳴と呼び続けた名前が入り混じったものを無理矢理飲み込むと、一拍おいてからぱたぱたとシーツに液体が跳ねる音がする。
ぐっしょりと汚れた左手と下股の一帯を不快に思う余裕もなく呼吸を整えて、ずるずるとベッドヘッドに預けていた体重の重心を下へとずらしていく。
ふっとため息にも満たない息をつきながら窓の向こうを探ったが、もう窓は鳴かなかった。
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