Posted by きなねこ - 2013.09.11,Wed
ガイ→ルク、屋敷時代
2012/5/25 加筆修正
2012/5/25 加筆修正
く、と呼吸が詰まる感覚がして背中を丸める。
断続的に短く息をこぼしながら、手のひらに張り付く粘着質な感触に眉を寄せた。
寝台から手を伸ばして脇のテーブルに無造作に放られたタオルをひったくると、それでおざなりに下股と右手を拭ってベッド脇に落とす。
皺になったシーツに力無くダイブすればマットレスから小さな悲鳴が聞こえる。
(ルーク、)
あの鳥かごの部屋で眠る赤毛の子供の名を頭の中で呼ぶと、眠りに落ちるように緩慢に目を閉じた。
復讐心を緩く、ここ最近になって少し急速に溶かしてくれる彼はいつだって身勝手な憎悪と愛情の対象だ。
喉を掻ききる妄想に揺れた指先で、あの柔らかな朱色を撫でつけて愛でることを喜んでいることに気付いてからも、ガイはそれなりに割り切っているつもりだった。
復讐心による憎悪と、執着心からなる愛情は同居出来ないなんてことはなく、いつか彼を刈り取るこの腕で今は愛することが出来るのだ、と。
ありきたりで簡単なごっこ遊びにすぎない。ほんの少し本気になってしまっているだけだ。
子供はいつだってごっこ遊びにのめり込んで本気になれる。外(と言ってもあの庭の中だけだが)を駆けることを覚えたばかりのルークがそうだった。男はいつまでも子供ね、なんて女は言うじゃないか。俺もまだまだ餓鬼だってだけの話だ。
そうしたら後は簡単で、同室のペールが部屋を空ける日の夜は爪先で布団を引っかきながらルークを思い出した。
世話を任されているガイがルークに触れる機会は余りに多く、そうでなくてもルークはガイ以外に世話をさせるのを嫌うので、あの甘やかな肌の感触を思い出すのは容易に過ぎた。
例えば、指先で舌先で白い肌を辿って、最近になって薄く筋肉の付きだした腹をなぞり、いやらしく撫であげた太股を開けば、リネンのシーツに散らばる先端に向けて色を金に変えた朱色のたっぷりとした髪が緩く暴れる。
それに唇を寄せてルークのにおいを胸一杯に吸い込んでから、熱に浮かされて膨らんだ雄を彼に突き立てて、涙の膜が揺れる欲を孕んだ緑の目に射抜かれる。
ガイ、と請うように零れた己の名前が耳を擽るのを感じながら、熱く湿った粘膜を気が済むまで少し乱暴に、そして好きなように突き上げてやる。
そして溢れる欲を彼の体の奥に注ぎ入れて、それに身じろぐ肢体を満たされたように抱き締めるのだ。
少しずつ状況を変えながら、それでも大体同じ流れで何度も繰り返された妄想は、いつだって夜半に一人でいる時のガイを熱をもってじくじくと苛んだ。
幾たびと焦れったい夜を迎える度に、一方的で理不尽な感情をルークに何時ぶつけようかと画策したが、まだそれも叶っていない。
夜に彼の部屋を訪ねた時、眠りに落ちた(フリを多分しているのであろう)ルークを撫でながら唇を寄せる意味を彼はきちんと解しているのだろか。
窓を鳴らす風の音に怯えたようにびくつきながらも期待と熱を孕んだ視線で窓の向こう側を探るルークが、自分の名前を小さく甘く呼ぶのを知ったのはつい先日だ。
熱を孕んでなぞる行為は殆どといって良いほど同じなのに、腹の底に据える感情がはたして同じなのか、可能性を疑うことも出来ないのは後ろめたいからなのか。
(ルーク、そんな目で、そんな声で俺を求めて)
(それなのに俺は自信が持てないよ)
脳裏に相手を描く理由に、ガイだけさらに裏側があることを知ったらルークはどんな顔をするだろう。
裏切られたと傷付いた顔をするのか、それともそれでもガイはガイだろうといつもの調子で面倒そうに漏らすのか。
そんな都合のいい答えなんて、と考えを振り払うフリはしてみるも、心の底で膜をはるようにうっすらと残る期待がルークを思う手を止めさせてくれない。
明日はきっと、窓を叩く風に怯えるふりをしながら自分の名前を呼ぶ声を壁越しに、ぼんやり月を見上げるんだろうと思った。
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